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そして、城内の空気が慌ただしくなったのは一夜明けて朝餉を終えた頃だった。

政宗と共にいた遊士は駆け込んで来た成実に瞳を細めた。

「何があった?」

入室の礼も無く飛び込んできた成実に、政宗は咎めるでもなく鋭い声を投げた。

「北の、最北端の村が織田軍に襲われてる。村人が助けてくれって今城門に…」

「Shit!いつきのいる村か!?成実、小十郎には?」

「伝えた。彰吾も一緒にいたからきっともう動いてる」

成実に指示を出し、政宗は立ち上がる。

「遊士、お前も来い」

「ん」

村人から詳しい話を聞くため政宗と遊士は客間に向かった。

二人が動いてるならその村人は客間に通されている筈だ。

「ところで政宗、いつきってのは?」

「お前達が来る前、最北端で一揆があったって言っただろ。その一揆衆の頭を勤めてたのがいつきだ」

客間まで来ると、ちょうど呼びに来ようとしていたのか彰吾と出会した。

「政宗様。遊士様も一緒でしたか」

「あぁ。客人は中か?」

「はい。今、小十郎殿が話を聞いている所です」

彰吾は政宗にそう答え、客間の襖を開いた。

話をまとめると、なんでも織田軍はいきなり現れたらしい。

田畑を荒らされ、応戦した村人の何人かがやられた。

そして、今もその村の頭であるいつきを始めとし、村人総出で何とか頑張って戦っている。

「オラはいつきちゃんにここへ助けを求めに行ってくれ、言われて」

そう話す村人は草臥れた顔で、着ている服もぼろぼろだった。

「そうか。分かった」

話を聞き終えた政宗は頷くと小十郎に視線を向ける。

「小十郎。すぐに出陣の準備だ」

「はっ」

村人を客間に残し、女中に世話を頼む。

「政宗、オレも行く」

客間を出て、自室に向かう政宗に遊士は声をかけた。

「…構わねぇが、今回は手ぇ出すなよ」

「何故ですか?」

ピリッと鋭くなった、政宗を取り巻く空気に彰吾が真剣な顔で聞き返す。

「お前等が戦う必要のねぇ相手だからだ。奴は刃を交える価値もねぇ」

その様子に遊士は顎に手を添え考えを巡らす。

織田軍と聞いただけだけど、政宗はこの先に待つ敵が誰なのか分かっているようだ。

それに、甲斐への襲撃から考えて…

「…明智か?」

伊達の当主を勤めるだけあって真剣になれば遊士の頭の回転は早かった。

そうだ、と頷き返した政宗は遊士に鋭い視線を向ける。

「これは戦じゃねぇ。だからお前等が戦う必要はない」

明智 光秀といえば遊士達の時代までその残虐非道な行いは伝わっている。だからこそ…。

「何でだよ?」

戦うなと言う意味が分からない。

真っ直ぐに政宗を見据え、遊士はそう切り返した。

だがその問いが政宗から返る事は無かった。

「分かりました。遊士様には俺が手出しさせませんので」

彰吾がそう政宗の言葉に先に頷いたから。

「彰吾!?」

お前もか、と声をあらげた遊士から、政宗の鋭い視線が彰吾に移される。

そして、彰吾と視線が絡むとふっとその強さが柔らいだ。

「そういう事だ。お前等には農民の救助を任せる」

それだけ告げて、政宗は行ってしまった。

残された遊士は不満そうに彰吾を見上げた。

「どういう事だよ彰吾」

二人だけで分かったような面しやがって。

怒っているというよりは拗ねたように言う遊士に彰吾は場違いにも穏やかな笑みを浮かべた。

「政宗様は遊士様の手を明智という外道の血で汚したくない、と」

その台詞に遊士は目を見開いて驚いた。

「そんなの…」

気にする必要ねぇのに、ともごもごと遊士は珍しく口ごもり、どこか落ち着かなさげにゆらゆらと瞳を揺らした。

その目元がうっすら赤らんでいるのを彰吾はあえて見ない振りをした。








陣羽織を羽織い、愛刀を左右一振りずつ腰に挿した遊士は彰吾と共に軍馬を引いて城門に向かう。

城門の前では集まった兵達が小十郎の指示で織田軍を迎え撃つ班と農民を救助する班に振り分けられていた。

スッと遊士が視線を動かした先で、政宗は腕を組みジッとこちらを見ていた。

遊士は彰吾に手綱を預け、政宗の元に向かう。

一歩、二歩と近づき、政宗の正面まで来ると足を止め、ニッと口端を吊り上げた。

「政宗、村の奴等はオレに任せとけ。オレが絶対に守る。だから政宗は気にせず明智の野郎をブッ飛ばせよ」

自信満々に笑む遊士に、政宗もフッと口元を緩めた。

「ha、言われなくてもそのつもりだ。竜の地に土足で踏み入った事、あの世で後悔させてやるぜ」

ニヤリと似た性質の笑みを浮かべ、遊士と政宗は視線を交わした。

「では、遊士様。彰吾と共に彼等をお願い致します」

「OK!小十郎さんこそ政宗を頼んだぜ」

二つの班に分かれた片方を遊士が指揮をとる。

「彰吾、遊士を頼むぜ。無茶しねぇように見張っとけ」

「政宗様も小十郎殿にあまり心配をかけませぬようお気をつけ下さい」

もう一方を政宗が指揮をとる。

「「行くぜてめぇら!Are you ready guys?」」

「「yeah――!!」」

伊達軍は最北端に向けて走り出した。




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